昆正和のBCP研究室

マルチハザードの時代を生き抜くためのBCP/BCMとは

第13回 ゼロ・カーボン時代の電力確保戦略(3)

 ところでクリーンエネルギーによる電力確保とくれば、太陽光発電システムがもう一つの切り札になる。電気はライフラインの復旧の中でも比較的早い方だが、大規模災害の直後では供給が不安定(計画停電や使用制限など)になり、電気使用量の多い工場などでは操業に影響が出ることもあるだろう。こうした状況から近年は、大企業はもとより中小企業でも、非常用に加え平時の電気料金の低減と有意義なSDGsの実践という目的からも、自家消費型の太陽光発電システムを導入する工場が増えている。
 例えば北関東地区で業務用食品卸売事業を営むT社では、およそ7500万円の資金を投じて、本社・宇都宮支店の屋上に太陽光発電設備を設置した。面積は約1700平方メートルに及び、出力規模はおよそ280kW、年間想定発電量はおよそ24万kWhである。太陽光発電による電力の全量を自家消費で利用し、自社施設の使用電力のうち20%を賄う計画であると言う。
 一般的に太陽光発電は、夜間や雨天の時間帯はエネルギー供給量が不安定になると考えられているが、蓄電池を併用することでこの問題は解消できる。自家消費型太陽光発電や蓄電池の設備を持つ事業者の中には、災害時の地域貢献を見据え、電気を開放できる仕組みを設けているところもあるとのこと。セイコーマートのケースもそうだが、事業継続の手段として非常用電源を確保している企業は、自社の復旧だけでなく、常に地域貢献を念頭に置いていることがわかる。
 こうした動きが加速すれば、EV車や再生可能エネルギーの普及が進むだけでなく、SDGs 目標13(気候変動対策)にも貢献する新たなBCPが増えることにつながるだろう。

第13回 ゼロ・カーボン時代の電力確保戦略(2)

 今回は「EVによる非常用電源の確保」についてである。現状、災害時の非常用電源は、防災用自家発電設備と保安用発電設備の2つの非常用自家発電設備のうち、後者が相当する。自家発電装置の原動機のタイプとそれぞれに使用される燃料には、ディーゼル機関(灯油、軽油重油)、ガス機関(天然ガス、都市ガス、LPガス)、ガスタービン(灯油、軽油重油天然ガス、都市ガス)などがある。
 これらはいずれも、CO2排出量の多い内燃機関ではあるが、自然災害などによる大規模停電の影響等を低減する上で必要不可欠との理由から、国土強靭化の一環として国が普及促進に力を入れてきたという経緯もある。こうした従来型の非常用発電装置や燃料が今日明日にも廃れたり市場から消えてなくなることはないかもしれない。が、脱炭素化が、もはや後戻りできない世界的潮流であることを考えると、多くの企業が次世代の非常用電源の確保を見据えた検討を今から始めることは、決して時期尚早ではない。
 新たな時代の非常用電源確保のヒントの一つに、コンビニエンスストアセイコーマートの事例がある。2018年の北海道胆振東部地震で道内全域が停電する中、同社では発災当日から多くの店舗でいち早く営業を再開することができた。各店舗に配備していた非常用電源キットを活用し、自動車のシガーソケットから電源を引いて店舗のPOSレジ等を動かしたのである。
 セイコーマート北海道胆振東部地震で活用した自動車はガソリン車だったが、2019年、同社は日産と「災害時における電気自動車(EV)を活用した電力供給」に関する協定を締結し、災害時のさらなる電力の安定供給のためのBCP戦略を進化させている。

第13回 ゼロ・カーボン時代の電力確保戦略(1)

 これからの時代、国内のどの企業にとっても電力の確保は避けては通れない課題になるかもしれない。理由は次の2つである。一つは、これまでも述べてきたように、リスクの多様化(マルチハザード化)に伴う電力インフラへの影響がある。気象災害を例にとると、台風による送電塔の倒壊や電線の切断、受電設備の浸水被害、熱波の襲来による冷凍・冷房用の電力ニーズ急増に伴う需給の逼迫などが考えられる。いずれも企業にとって、これらは「停電」や「計画停電」という形で顕在化する。
 もう一つはエネルギー革命に乗り遅れた日本の構造的な問題である。CO2を排出する従来型の製品や商品の生産・利用を容易には放棄できないという理由から、再エネの利用が進まない、利用が進まないから宣伝もしない、よって需要も喚起できないという悪循環に陥ってしまう。経済産業省有識者会議で「老朽化した火力発電所の休止や廃止による供給力の減少で電力需給が厳しくなる」との見通しを示し、「企業にはオフィスや工場での省エネとピーク時の電気の使用を抑える取り組みを呼びかける」としている。この発表は2021年度の文脈で述べたものだが、構造的な問題なだけに2022年以降なら大丈夫というわけではない。
 今現在、多くの国々が全力をあげて再生可能エネルギーによる分散型電力網を整備している。中国などは今や世界最大の太陽光発電設備設置国である。化石燃料需要は2030年を待たずにピークアウトすると言われている。こんな情勢の中、日本だけ旧式の電力システム・製品・商品に頼り続ければ、電気を取り巻く環境がだんだん脆くなっていくのは目に見えている。タイトな電力需給が続く中、気候変動を始めとする大規模災害がたびたび起これば、企業にとってのダメージもけっして小さくはない。このあまりに明白な現実を少しでも避けるために、企業として前もって準備できることは色々と考えておきたいものである。そこで今回は、将来を見据えた有事と平時の電力確保のあり方について考えてみよう。